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急成長するインドのEV市場

2023年のインド国内の自動車販売台数は中国、米国に次ぎ世界第3位でした。今回はそのうちのEV(電気自動車)の動向についてご紹介します。2023年のインドにおけるEV車の販売台数は、自動車販売全体の1%台にとどまりました。しかし、販売数からいうと前年度の50%増と、大幅な成長を見せています。その現状と背景、課題についてご紹介します。

なぜ今インドでEVなのか?

現在インドでは大気汚染が深刻な問題となっており、複数の都市で健康への影響が心配されています。その疾病による損失額も大きくGDPへの影響も懸念され、排気ガスの削減は急務となっています。この観点からもインド政府はEVの普及を積極的に進めています。政府は2070年までに温室効果ガス(GHG)排出ゼロを目標に再生可能エネルギーの開発、化石燃料の削減などに取り組んでいますが、まずは排気ガス削減のために、EV販売拡大を支援しています。2030年までに四輪新車販売の30%、商用車の70%、二輪車の90%をEVとするという目標を掲げています。これを反映して、多くの州でEV政策として産業支援、企業誘致を進めています。その結果、2023年のEV新車登録台数は、前年の50%増し、過去最高の大きな伸びを示したのです。

インドのEV市場

EVのナンバープレートは全て緑色と決まっています。最近ではこの緑のプレートをよく見かけるようになりました。EV専門のタクシー会社も現れましたが、四輪車全体に占めるEVの割合はまだ1%強に過ぎません。ではその市場はどのようになっているのでしょうか。
2021年以降のインドのEV販売台数は大幅な伸びを示していますが、その内訳を見てみましょう。
インドのEV市場では、中国車の影響をそれほど受けておらず、インドの財閥企業であるタタ・モータースがEV販売台数の70%と圧倒的なシェアを占め、インドのマヒンドラ&マヒンドラ、上海汽車(SAIC)傘下のMGモーター、韓国、ドイツのメーカーがこれに続いています。
その他二輪車、三輪車の各部門も含め、500社近い企業が激しいシェア争いを展開し、今後さらに激化することが予想されています。スズキなどの日本勢もEV対策が求められており、各社とも取り組みを始めています。

EVの課題

なぜEV台数が2%以下にとどまっているのか。まずは価格が高いことにあります。インドで一般的な小型車について見てみると、ガソリン車の価格(約70万ルピー(120万円))に比べて2倍近い価格(約130万ルピー(220万円))になっていることが挙げられます。税金面で優遇もされていますが、まだ高い買い物と言えます。
次に、一回の充電で走行できる距離が満タンのガソリン車の半分以下であること。ですから市内ドライブにはいいのですが、長距離のドライブには不安が残ります。
また、充電インフラが不十分であることが挙げられています。

政府の取り組みと今後の動向

政府は、生産側に対して、EV関連の生産工場の新設・拡張に補助金を給付する一方、購入者に対しても購入時の補助金給付、登録税免除などの優遇措置を講じています。
また、EV購入者の走行距離に対する不安を解消するためにも、政府は公共充電ステーションの大幅拡大を計画しているほか、多くの民間企業もインフラ整備に取り組んでいます。
インドはIT 大国として知られていますが、それに比べて“モノ作り”の分野はあまり得意とはいえません。従ってEVに必要なLIBセルは自国で製造せず、輸入しているのが現状です。そこで今後に向けて、技術ノウハウを海外から取り入れ、国内製造を目指す活動が始まったところです。この取り組みは特に南インドの各州で積極的に進められています。

世界一の人口を誇るインドの乗用車普及率は8%程度にとどまっており、今後も市場拡大の余地がある上、政府、企業がそろって積極的にEVの製造、販売に取り組んでいます。そのためインドのEV市場はこれからますます拡大が見込まれ、今後の動向から目が離せません。