- シティ・オブ・ドリームとその言語:マラーティー語
ある人は夢を実現するためにムンバイに向かい、またある人は教養を深めるためにプネに向かう。西インドのマハーラーシュトラ州には人々を魅了する2つの都市があります。
- マラーティー語と文学
マラーティー語はそのマハーラーシュトラ州の公用語です。マラーティー語の話者数は、近隣の州も含め9000万人にのぼるとされていますが、これは何と日本の人口の約7割に相当します。マラーティー語はインドで話されている22の主要言語のひとつです。表記はヒンディー語と同様にデーヴァナーガリー文字を使います。10世紀には文字を持ち、民衆の信仰を詩に謳う洗練された言語として発展した歴史を持っています。
マラーティー語による宗教詩は13世紀ごろから盛んであり、また、反カースト差別の詩や小説も盛んに書かれました。これらはインドの近代化運動のきっかけとなり、それは現在まで続いています。このようにマハーラーシュトラ州の文学は大きな意義を持っています。
一方、近年は世界中の多くの文学作品がマラーティー語に翻訳され、マハーラーシュトラ州の人々は世界文学を楽しんでもいます。ティーンエイジャーになると、多くのマラーティー語を話す子供たちが、学校のカリキュラムの一環として「トットちゃん」(小説「窓ぎわのトットちゃん」のマラーティー語訳)を読んでいます。また最近では、フランセスク・ミラージェスによって書かれ、2016年にスペインで出版され、その後、約20か国語に翻訳された「IKIGAI(生きがい)」のマラーティー語訳が多くの人に読まれています。この本はインドの人々に日本文化を紹介しました。- プネーはインド一の学術都市
私たちのオフィスがあるプネーは昔から教育が盛んな、「東のオックスフォード」として知られる学術都市です。日本語教育の質の高さに関しては、プネーはインド随一の実績を誇っています。
理由はいろいろあると思いますが、昔から文化人を輩出し、文学的、政治的な背景と伝統を持っていること、そして、プネーには大学をはじめとした教育機関が多く、プネーの人は基本的に学ぶことが好きで、日本語に限らず外国語学習が非常に盛んであること。みんな学ぶことが大好き、ほとんど趣味といってもいいくらいです。さらに、近年は国内外の企業が集積する巨大ITパークも次々と完成し、日系企業で働くチャンスが増大したことが挙げられます。
そんな学術、IT都市プネーが1年で最も賑わいを見せるのがガネーシャ祭り。ヒンドゥー教の太陰暦バードラパダー月にあたる毎年8月末から9月にかけての11日間、大音量のドラムとマントラ(讃美歌)、大小さまざまなガネーシャ(神様)の像が街にあふれ、熱気に包まれます。この祭りの間、人々はガネーシャが好きなお菓子や果物を供え、音楽、ダンスやお祈りを捧げ、最終日にはガネーシャ像を乗せた山車で街を練り歩き、最後に近くの海か川に流します。土で作られたガネーシャは水に溶け、自然に戻ります。こうしてガネーシャは天上の住まいに戻り、来年まで私たちを見守ってくれるのです。- マハーラーシュトラ州と日本
マハーラーシュトラ州のムンバイにはインド最大手の民間財閥であるタタ・グループ、リライアンス・インダストリーズの本社などが置かれ、物流面ではチャトラパ ティ・シヴァージー国際空港やジャワハルラール・ネルー(ナバシェバ)港による物流ハブがあります。また、インド準備銀行(RBI)の本店やボンベイ証券取引所(Bombay Stock Exchange: BSE)をはじめとした、内外の大手金融機関が集積しているアジア有数の金融拠点でもあり、日本の銀行も支店を構えています。更 に、ご存じのように世界最大規模といわれるインドの映画産業の中心「ボリウッド」(Bollywood)があります。
このようにムンバイはインドの商業、金融、文化の中心地として機能していますが、近年、ムンバイに限らず、マハラーシュートラ州全体に進出する日系企業が増加しています。そして、もちろんそこで日本語を使って働く人々も増えています。今後もますますマハラーシュートラ州と日本のつながりは広く、深くなっていくでしょう。
長い伝統に培われた文化を守りつつ、IT産業をはじめとした最新の発想や技術も取り込んで共存させていく、そんな柔軟さこそ、マハラーシュートラ州の人々の生き方なのかもしれません。